最近のベーゼンドルファーを弾いて

1月26日に県内の舞台技術関係の方々の講習会が丸子セレスホールであり、今回はベーゼンドルファーがテーマでした。
講義は、調律界では知らない人いない有名な名取さん。そのあとのコンサートで弾かせていただきました。
プログラムにはシューベルト入れればよかった!とかショパンもありだったかも!とかあとからいろいろ思いますが、なにしろ30分の中で話も入れたので、当日のプログラムは結局‥

スカルラッティ ソナタ ト長調  L349(K146)
モーツァルト  デュポールのメヌエットによる変奏曲(くり返しなし)
バッハ・ブゾーニ  シャコンヌ



なぜタイトルを「最近のベーゼン‥」にしたかというと、私の耳や感覚に焼きついているベーゼンが、東京は赤坂の青山タワーホールという(今はホールとしては使われていない)ところにあった27年前のベーゼンのインペリアルだからです。

ベーゼンは音が小さいとか反応が悪いとか音色が揃いにくい‥とかいう話をよく耳にしますが、私は一度もそのように感じたことがなかった!力で物言わせようとさえしなければ良く響く音で、和音の中のどの音でも出そうと思えばすぐ反応し、輪郭をくっきり浮かび上がらせることも、独立した真珠のような音でパッセージを楽しんで弾くこともできる‥そんな印象の楽器でした。
スタインウェイが遠鳴りする楽器ならベーゼンは内に響く楽器‥そんな大好きな忘れられない楽器として27年間心の奥にありました。

セレスホールのベーゼンは安定はしていたものの、華やかな両サイドの音色や明るい音色はすっかり大人しくなり普通っぽいピアノになってました。つまり変わった!というのが最初の印象でした。
でも、弾いていくにしたがって馴染んできてタッチ自体は27年前の憧れのベーゼンを彷彿させるものがあり、結局のところは夢中で弾いてしまいました。

1000人のホールではなく半分、いやせめて700位のところで弾きたかったかな。
なにしろ長いブランクのあとの浦島太郎状態の私なので‥昔のベーゼンがより懐かしい!でも同時に、ベーゼンはちょっと変わってしまったけどやっぱり相性の合う大好きな楽器でした!



名取さんに「大きなホールでも音量は問題なかった。ベーゼンの音が出てた」と言われ、昔誰かに同じようなこと言われたなあ〜とまたアーカイブスの世界!
故斉藤氏! あの当時はもう調律はしていらっしゃらなかったけれど、音にうるさい、そしてピアノをこよなく愛した素敵な方でした。浜松の大橋の工場に連れて行ってくださり、大橋のグランドピアノに惚れ込んでしまった私を見て、ご自分の個人ローンを組んで買わせて下さった! そしてピアノをきちんと管理できるか我が家に偵察にいらした上で納品して下さいました。
これがあれば!と大事にしてきた大橋のグランドピアノでしたが、今ではすっかり年取ってしまい‥でも響きは枯れてもひとつひとつの音が個性豊かな主張をしていて亡き斉藤さんを思い出します。
怖い耳を持っていらして、私のコンサートにいらしてくださり「ベーゼンの音が出てましたよ!」と言って下さるとほっとしたものでした。

来年のショパンコンサートにベーゼン使うのもいいなあといろいろ想いが湧いてくる。久しぶりに昔の恋人と出逢ったようなドキドキした一日でした(*^_^*)